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コトリバコ

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※この物語に登場する人物の名前はすべて架空のものです。地域の名前は一部実在のものと架空のものが混在しています。

これは霊感の強い友達の話。

その友達は中学生の時からの付き合いで、三十手前になった今でも頻繁に遊んだり、飲みに行くような間柄です。

そいつの家は俺らの住んでいるところでも大きめの神社で、普段は神社の近くにある家に住んでいます。

その日は飲みに行こうかってことで、俺の家に集合することになりました。先にそいつと、そいつの彼女が到着したので、もう一人の女の子、咲をゲームをしながら待つことにしました。

そうこうしていると、咲から電話がかかってきました。

「ごめんちょっと遅れるね。納屋から面白いものが見つかって、家族で夢中になってた。

明ってさ、クイズとかパズル得意だったよね? 面白いものもって行くね! もうちょっと待ってて。」

それから40分くらいしたころ、咲がやってきました。

「やべぇ。これやべぇ。どうしよ、父ちゃん今日留守だよ……」

「ん? 正樹どうした? また霊が出たんか?」

「大丈夫!?」

「出たってレベルのもんじゃないかも。明、やべぇよこれ。」

正樹は、普段オバケとか神社の仕事のことをあまり話題に出さないんですが、たまにこうやって怯えるんです。

俺も咲も佳奈も、そのことは知ってるんですが正樹が突っ込んだ話をされるのを嫌がるので普段はあまり話題にしません。

咲が俺の部屋まで上がってきました。

「咲、何持ってきたん? 出してみ……」

「え? え? もしかして私やばいの持ってきちゃった……?」

「……うん」

「来週家の納屋を解体するから掃除してたんだけど、そのときにこれが出てきたの」

そう言って咲は20cm四方ほどの木箱を取り出しました。電話でパズルって言っていたのはこのことだったのでしょう。小さな木が組み合わさって箱になっています。

「それ以上触んなや!触んなや!!」

正樹が携帯を取り出し電話をかけました。

「父ちゃん、友達がコトリバコ持ってきた。俺、怖い。じいちゃんと違って俺じゃ無理や……」

正樹は泣いてました。それほど恐ろしいことなのでしょう。

「うん、憑いてない。箱だけしか見えん。跡はあるけど、残ってないかもしれん。うん、少し入ってる。友達のお腹のとこ、シッポウの形だと思う。中に三角がある。間違いないと思う。」

「分かった。ミスったら祓ってや、父ちゃん頼むけんね」

正樹はここで電話を切りました。

「明、カッターか包丁貸してくれや」

「お、おい、何するん!?」

「誰か殺そうってわけじゃない。咲に憑いてるもん祓わないかんけん。咲、俺みて怯えるなっていうのが無理な話かもしれんが、怯えるな!佳奈も明も怯えるな!とにかく怯えるな!怯えるな!!負けるか!負けるかよ!!怯えるな!怯えるな!なめんな!俺だってやってやる!じいちゃんやってやら!見てろよ糞!糞ぉおおおおお!」

正樹は自分の怯えを吹き飛ばすかのように咆哮をあげていました。

咲は半泣きです。怯えきっていました。俺も佳奈も泣きそうになっています。

「分かった。分かった。頑張ってみる」

俺も咲も佳奈もなにやら分からないけど、分かった分かったって言ってました。

「明、包丁かカッター持ってきてくれ」

「お、おう……」

包丁を手渡しました。

「正樹、俺の内腿を思いっきし抓ってくれ!おもいっきし!」

もう訳が分からないけど、言うとおりにやるしかありません。

「がぁあああああがあぐいうううあああ・・・・・”!!!」

正樹の内腿を抓り上げる俺。

正樹は俺に腿を抓り上げられながら、自分の指先と手のひらを包丁で切りつけました。

「咲、口開けぇ!」

正樹は咲の口の中に、自分の血だらけの指を突っ込みました。

「咲、飲みぃ。まずくても飲みぃ」

「あぐ;kl:;っぉあr」

咲は大泣きです。

「◎△*の天井、ノリオ? シンメイイワト アケマシタ、カシコミカシコミモマモウス」

なにやら祝詞か呪文か分かりませんが、5回〜6回ほど繰り返しました。呪文というより浪曲みたいな感じでした。

正樹が咲の口から指を抜くとすぐ、咲は血の混じったゲロを吐きました。

「うぇええええええええええおええわええええええええ」

「出た!出た!おし!!大丈夫!咲は大丈夫!次……!じいちゃん見てくれよ!」

正樹は血まみれの手を、咲の持ってきた木箱の上にかぶせました。

「コトリバコ、コトリバコ。◎△*??Й、いけん、いけん、やっちょけばよかった」

正樹がまた泣きそうな顔になりました。

「明!父ちゃんに電話してくれ!」

言われた通りに正樹のお父さんに電話をかけました。

「父ちゃん、ごめん忘れた、一緒に詠んでくれ。」

正樹は携帯を耳にあて、右手を小箱添えて、また呪文みたいなものを唱えてました。やっぱり唄ってるみたいな感じでした。

「終わった。終わった……おわったぁ、うぅえぇえええ」

正樹はまた号泣してました。佳奈によしよしされながら、20分くらい大泣きしてました。

俺たちも号泣して、4人でわんわん泣いてました。その間も、正樹は小箱から決して手を離しませんでした。

「……ふぅ。明、手と箱を一緒に縛れる長さのタオルか何かないか?」

「あぁ、あると思う。探してくるよ。」

洗面所の棚を覗くと、薄手のバスタオルがあったのでそれを持って部屋に戻り、正樹の手と木箱を縛り付けました。

「さて、どこに飲みに行く?」

「「「……は?」」」

「冗談じゃ。今日はさすがに無理だけん、明、送ってくれよ」

その日は全員なんだかへとへとで、俺が送っていくことになりました。

それから8日ほど正樹は仕事を休んだようです。

「お、正樹。8日振りくらいか? 結局、この間のあれってなんだったんだ?」

「あ〜っとなぁ。咲のところは言い方悪いかもしれんが、近くの山にある部落でな。ああいうところには、ああいったものがあるもんなんよ。あれは父ちゃんが帰ってきてから安置しといた。ま、あんまり知らんほうがええよ。」

「あの中に入っちょるのはな、怨念そのものなんよ。中身は人差し指の先とへその緒だけどな。人の恨みってのはこわいで、あんなもの作りよるからな。あれが出てきたら、俺のじいちゃんが処理してたんだ。じいちゃんの代であらかた片付けたと思ってたんだけど、まさか俺がやることになるなんてな。俺はふらふらしてて、あんまり家のことやってなかったから、まじでビビってたよ。ちょっと俺も勉強するわ。まぁ、才能ないらしいが。それとな、部落云々とか話したけど、差別とかすんなよ? 咲とも今までどおりな。そんな時代じゃないしな。あほくせぇやろ」

「あたりめぇじゃん」

咲によれば、あの後業者が納屋を解体しにきたのですが、そのとき隣のおじいさんと一騒動あったらしい。

そのときの内容を明日3人に話しておきたいとのこと。

正樹に話したらOKということで、明日、四者会談をすることになりました。佳奈は来るか分からないけど。

前日の夜の時点では当事者4人、俺の家で咲の話を聞くという予定でした。しかし、咲が家族と隣家のおじいさんも交えて話がしたいと言ったので、咲の家に行くことになりました。

まず、事件のあと納屋の解体業者が来たときの話を。事件の2日後になります。

5月23日、解体用の機械を敷地に入れ、作業に入ろうかというとき、咲のお父さんに隣家のおじいさん、二郎さんが話しかけてきたそうです。

咲のお父さんが納屋を解体することを伝えると、二郎さんは抗議してきたそうです。

軽く揉めており、その声を聞いた咲は、もしかしたらあの箱のことを知っているのかもと思い、聞いてみようと外に出たそうです。

この時点では、咲は家族にあの日のことは話していなかったそうです。

納屋を壊すなと言う二郎さんに

「反対する理由はあの箱のことなのか? あの箱はいったい何なのか?」

という様なことを聞くと、

二郎さんは驚いた顔をして

「箱を見つけたのか。あの箱をどうした? お前は大丈夫か?」

とあわてた様子で聞いてきました。

それで事件の経緯を話すと、二郎さんは自分の責任だと謝りました。

「聞いておかんかったからこんなことになった。話しておかんかったからこんなことになった。近いうちにお宅の家族に話さないけんことがある。」

そう言って二郎さんは帰っていきました。

そうして、当日を迎えました。

咲のお父さんが二郎さんにお話いただけますか? と言うと、俺と佳奈が居ることで話していいものか悩む素振りを見せました。

そこで、正樹が先に話すことにしました。

「二郎さん。本来、あの箱は今あなたの家にあるはずでは?」

二郎さんの表情からは何を考えているのか読み取ることは出来ませんでしたが、話を遮るつもりはないようでした。

「今回、俺が箱に関わったってことと、父が少し不審に思うことがあるということで昨夜、父と管理簿を見ました。そうしたら、今のシッポウの場所は咲……河野さんの家ではなく、二郎さんの家と書かれていました。

河野さんのところのおじいさんは高橋さんから引き継いだあと、すぐに亡くなられてますよね。管理簿では、高橋家、河野家、二郎さんの家の移動が1年以内になってました

でも、今回箱が出てきたのは河野家だった。咲の話を聞くまでは、もしかしたら何か手違いがあって、あなたも箱のことを知らなかったのかもしれないと考えていました。でも、知っていますよね? 知っていたのに引き継いでいない。

河野家にあるのを知ってて黙っていた。

今回は無事に祓えたんで、あとは詮索されてもとぼければ済むかなって思ってたんですよ。何かの手違いで咲の家の人みんなが知らなかっただけで結果オーライというか。

今日だって、昨日父と管理簿を見てなかったらここには来てなかったと思います。でももし、こういったことが全体で起きてるのなら、残りの箱の処理に関しても問題が起きます。

咲はたまたま、本当にたまたま箱に近づかなかったっていうだけで。たまたま、本当に偶然あの日俺と会うことになってたってだけで。もしかしたら咲は死んでたかもしれない。

だから、なぜこういうことになってたのか話していただけませんか?

それと佳奈はその場に居た『女』です。もちろん子どもを生める体です。部外者ではありません。被害者です。

それと明は、部外者かもしれませんが、そうでもないかもしれません。こいつの名字は小鳥遊です。ここらじゃ、そうそうある苗字じゃないですよね?」

俺はなんのことやら分からなかったけど、二郎さんは俺の方を見て得心が行ったようにうなずくと話を始めた。

「まず、箱のことを説明したほうがいいですかな。シッポウは河野家、私の家、そして斜め向かいにあった高橋家の三家で管理してきたものです。

あの箱は三家持ち回りで保管し、家主の死後、次の役回りの家主が前任者の跡取りから受け取り、受け取った家主がまた死ぬまで保管する。受け取った家主は、跡取りに箱のことを伝える。

跡取りが居ない場合は、跡取りが出来たあと伝える。どうしても跡取りに恵まれなかった場合、次の持ち回りの家に渡す。

他の班でも同じです。三家だったり四家だったりしますが。

他の班が持っている箱については、お互い話題にしないこと。

回す理由は、箱の中身を薄めるためです。

箱を受け取った家主は、決して箱に女・子どもを近づけてはいけない。箱を管理していない家は、管理している家を監視する。また、椎木さんの家から札をもらい、箱に張ってある古い札と貼り替える。約束の年数を保管し、箱の中身が薄まったあと椎木さんに届け処理してもらう。

そういう約束になっていました。

本来なら、私が河野さんのおじいさんが亡くなったときに箱を引き継ぐはずでした。

でも、本当に怖かったんです。高橋さんが死に、引き継いだ河野さんも立て続けに死に、男には影響ないと分かっていても怖かった。

そんな状態で、いつ河野さんが箱を持ってくるのか怯えていたんです。

でも、葬儀が終わって何日経っても連絡が来ない。

それで高橋さんとこの跡取りと相談したんです。もしかしたら河野さんは何も知らないのかもしらない、箱から逃げられるかもしれないと。

そう思うと動き出すのは早かったです。

まず、河野さんに箱のことをそれとなく聞き、何も知らされていないことを確認しました。

それから、河野家に箱をおいたまま納屋の監視は続け、高橋さんは札の貼り替えをした後、しばらくして引っ越すことに決めました。

そうすれば、他の班からは『あそこは終わったんだな』と思ってもらえるかもしれないから。

引き継ぐはずだった私が、河野家の監視を続け、約束の年が来たら私が納屋から持ち出し椎木神社に届ける。

それまでに河野さんの奥さんや娘さんが箱に近づいて死んでしまったとしても、箱のことは河野家の人は知らない。他の班は、箱のことに触れるのは禁止だからばれることは無い。

そう高橋さんと相談したんです。本当に申し訳ない。だから、他班の箱のことは分からない。本当に申し訳ない。」

二郎さんは土下座して何度も謝ってました。

咲のお父さんは、死んだ爺さんに納屋には近づくなとは言われていたそうです。

気味の悪い納屋だったので、あえて近づこうとも思っていなかったようです。

それで、どうせなら取り壊そうという話になり、中の整理をすることになったらしいです。そのときに咲が箱を見つけてしまったという経緯でした。

みんな信じられないという感じでしたが、ただ咲のおばあさんだけがなにやら納得したような感じでした。

続けて、正樹が話しはじめました。

「……なるほど、そういうことでしたか。引継ぎはしなかったとはいえ、監視をしなければならず、結局は箱から逃げることは出来なかったんですね。結局苦しんだと。定年まで確か、あと19年でしたよね? 引き継いでいたとしても俺が祓うことになってたのかな。

河野さん、現実味の無い話で、まだ何が何だか分からないと思います。このご時世にバカみたいに思うかもしれないけど、間違いなく現実です。

でも、二郎さんを怒らないであげてほしい。

あの箱が何か知ってるもんにとっちゃ、それほど逃げたいもんだけん。まぁ、もう箱はないんだけん安心だが?  面白い話が聞けて楽しかったと思って二郎さんを許してやって欲しい。」

二郎さんは俯いて項垂れていて、なんだか痛々しく見えました。

「多分みんな、あの箱の中身が何かを知りたいだろうと思う。ここまで話したら、もう最後まで聞いてほしい。俺も全部は知らんけど、知ってることを話す。

ここはもう箱の処理も終わったけん、問題ないと思うし。

残りの箱はあと二つ。多分、俺が祓うことになるけん、俺の決意ってのもある。それと、咲のお父さんは本来知っておかんといけん話だけん。

あの箱はな、子取り箱っていって間引かれた子どもの身体を入れた箱でな。作られたのは1860年代後半〜80年代前半頃。

この部落はこの辺でも特にひどい差別や迫害を受けた地域なんよ。余りにもひどい迫害だったもんで、間引きも結構行われていた。稔(地名)の管轄にあったんだが、特に稔からの直接の迫害がひどかったらしい。

働き手が欲しいから子どもは作るが、まともな給料がなく、生活が苦しいから子どもを間引く。

1860年代後半かな? 隠岐の島で反乱があったのはしっちょるか? その反乱は1年ほどで平定されたらしいんだけど、そのときの反乱を起こした側の男が、この部落に逃れてきた。島帰りってやつだな。

その島帰りの男、小鳥遊って言うんだよ。

男は反乱が平定されて、こっちに連れてこられた時に隙を見て逃げ出してきたそうだ。部落の人らは、余計な厄介ごとを抱えると、さらに迫害を受けると思ってそいつを殺そうとしたんだって。

でも、そいつが『命を助けてくれたら、お前たちに武器をやる』というようなことを言ったんで、どのようなものかを聞いて相談した結果、条件を飲むことにしたんだ。

男はもう一つ条件を出してきた。武器の作り方を教えるが、最初に作る箱は自分に譲って欲しい。どうしてもダメなら殺せと。

部落の人はそれを飲み、男に箱の作り方を教わった。

作り方を聞いてからやめてもいい、そして殺してくれてもいいとも男は言ったそうだ。

それで、その方法がな、最初に複雑に組み合わさった木箱をつくること。これはちょっとやそっとじゃ開けられないようにするための細工らしい。これが一番難しい作業って話だ。

次に、その木箱の中を、雌の畜生の血で満たして、1週間待つ。血が乾ききらないうちに蓋をする。

それから、中身を作るんだが、間引いた子どもの体の一部を入れるんだ。

生まれた直後の子は、臍の緒と人差し指の先第一間接くらいまで、それと腸(はらわた)から絞った血を入れる。

7つまでの子は人差し指の先と、同じように腸から絞った血を入れ、10までの子は人差し指の先を入れる。

閉じ込めた子どもの数、歳の数で箱の名前が変わる。一人でイッポウ、二人でニホウ、三人でサンポウ、四人でシホウ、五人でゴホウ、六人でロッポウ、七人でシッポウ。それ以上は絶対にダメだと男は念を押したそうだ。

そして、それぞれの箱に、目印をつける。イッポウは△、ニホウは■といった具合に。

ただ、自分の持っていく箱、ハッカイだけは7つまでの子を八人くれ、ハッカイとは別に女1人と子ども1人をくれと、男は言った。

ハッカイは最初の1個以外は決して作るなとも言ったそうだ。

普通そんな話まで聞いて、実行なんか出来ないよな。

いくら生活が苦しくても、自分の子どもを殺すのでさえ耐え切れない辛さなのに。さらに殺した子どもの死体にそんな仕打ち。でも、ここの先祖はそれをやったんだよ。

どういった心境だったのかは分からないけど、それだけものすごい迫害だったんだろうね。子どもを犠牲にしても、武器を手にしないといけないほどに。

そうして、最初の小箱が作られた。各家、相談に相談を重ねて、どの子を殺すかっていう最悪の相談。そして実行されたんだ。ハッカイが出来上がった。

男はこの箱がどれほどのもので、どういう効果なのかを説明した。要望にあった子どもと女を使ってね。

効果は女と子どもを取り殺すというもの。それも苦しみぬく形で。何故か、徐々に内臓が千切れるんだ、触れるどころか周囲にいるだけでね。

その効果を目の当たりにした住民は、続けて箱を作ることにした。住民が自分たちのために最初に作った箱はシッポウだった。

7人の子どもの箱。

わずか2週間足らずの間に、16人の子どもと、1人の女が殺されたんだよ。箱を作る目的とその実演のためにね。

そして、出来上がった箱を、稔の庄屋に上納したんだ。住民からの気持ち、誠意の証という名目で。

庄屋の家は、ひどい有様だったらしい。女・子どもが血反吐を吐いて苦しみぬいて死んだそうだ。そして、住民は稔のお偉方達、稔の周囲地域にこういうことを言った。

  • 今後一切部落に関わらないこと
  • 放って置いて欲しいこと
  • 今までの怨みを許すことは出来ないが、放っておいてくれれば何もしないということ
  • 約束を守ってくれるのなら、稔へ仕事に出ている部落の者も、今後稔に行くこともしないということ。
  • もしこのことに仕返しをすれば、この呪いを再び振りまくということ
  • 庄屋に送った箱は、直ちに部落に返すこと
  • なぜうちの部落を放置するのか、その理由は広めないこと。ただ放置することだけを徹底すること
  • この箱はこれからも作り続けること
  • 既に箱は7つ存在していること

正直、読み書きすら出来なかった当時の住民に、これだけのことが思いつくはずがないと思う。例の男が入れ知恵でもしたんだろうか。

稔含め、周辺地域は全てこの条件を了承したらしい。

この事件は、一時期は周辺に噂としてでも広まったのだろうけど、すぐさま部落への干渉が一切止んだそうだ。

それでも、この部落の人たちはコトリバコを作り続けたんだよ。

すでに男はどこかに行ってたらしいんだが、箱の管理方法を残して。

  • 女・子どもを絶対に近づけないこと
  • 必ず箱は暗く湿った場所に安置すること
  • 処分するときは○を祭る神社に頼むこと

箱の中身は、年を経るごとに次第に弱くなる。もし必要なくなった、もしくは手に余るようなら、必ず寺ではなく○を祭る神社に処理を頼むように言い含めた。

住民たちは13年に渡って箱を作り続けたそうだ。

ただ、最初の箱以外は、どうしても間引きを行わなければならない時にだけ間引いた子の身体を作り置きした箱に入れた、ということらしい。

子どもたちを殺すとき、大人たちは『稔を怨め、稔を憎め』というようなことを言いながら殺したらしい。

箱を作り続けて13年目、16個目になる箱が出来上がっていた。

イッポウ6つ、ニホウ2つ、ゴホウ5つ、シッポウ3つ。単純に計算しても、56人の子ども。

作成に失敗した箱もあったという話だから、もっと多いだろうな。

そして、13年目に事件が起きた。その時、全ての箱は1箇所に保管されてたんだけど、11歳になる男の子が監視の目を盗んで箱を持ち出してしまった。

最悪なのが、それがシッポウだったってこと。

箱の強さは、イッポウ<ニホウというふうに数が増えるほど強くなる。しかも出来上がって間もないシッポウだ。

箱の外観は分かるよな。咲が楽しく遊んだというように、非常に子どもの興味を引くであろう作りだ。

面白そうなおもちゃを手に入れた男の子は家に持ち帰り、その日のうちに、その子を含め家中の子どもと女が死んだ。

住民たちは、初めて箱の恐怖を、この武器が油断すれば自分たちにも牙を剥くということを改めて痛感した。

一度牙を剥けば、止める間もなく望まぬ死人がでる。非常に恐怖した住民は箱を処分することに決めたそうだ。

代表者5人が俺の家に来て、先祖に処理を頼んだ。箱の力が強すぎると感じた先祖は、箱の薄め方を提案したんだ。それは二郎さんの言った通りの方法。

  • 決して約束の年数を経ない箱を持ち込まないこと
  • 神社側からは決して部落に接触しないこと
  • 前の管理者が死んだ後、必ず報告をすること

箱ごとの年数は、恐らく俺の先祖が大方の目安、箱の強さによって110年とか、シッポウなら140年ほど箱の管理から逃げ出せないよう、そのルールを作ったんだ。

班毎に分かれたあと、一人の代表者を決め、各班にその代表者が届けた。そしてどの箱をどの班に届けたかをうちの神社に伝え、祖先が控えた後その人は殺される。

これでどの箱をどの班がどれだけの年数保管するのかは分からない。そして、班内以外の者同士が箱の話をするのをタブーとしたそうだ。

なぜ全体で管理することにしなかったのかは、全体で責任を背負って責任が薄まるよりも、少ない人数で負担を大きくすることで逃げられないようにしたんじゃないかな?

そして約束の年数を保管した後、持ち込まれた箱を処理した。

じいちゃんの運の悪いところは、約束の年数ってのがじいちゃんとひいじいさんの代に、もろ重なってたってことだ。

箱ごとの約束の年数っていうのは、法則とかさっぱり不明で、他の箱はじいさんの代で全部処分できたんだが、シッポウだけはやたら長くて、俺の代なんだよな。

まだ先だと思って何もやってなかったけど真面目にせにゃ。これで全部だ。箱に関すること。俺が知ってること。そして、俺が祓ったシッポウは、最初に作られたシッポウだってこと。

箱の年数はどうやって決めたのかは分からない。俺の先祖が箱について何かしら知ってたのかも知れないし、男からそういう話があったらそうしてくれと頼まれていたのかもしれない。」

以上がコトリバコの真相だ。

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